小泉八雲が愛した日本情緒あふれる屋敷
小泉八雲旧居は、松江藩に仕えていた武士の屋敷が立ち並ぶ塩見縄手(しおみなわて)にあります。
日本の文化をこよなく愛した八雲は、「庭のある侍の屋敷に住みたい」と強く希望して、この家に移り住みました。
そんな小泉八雲旧居の一番の見どころは、母屋を取り巻く三方の庭です。
枯山水の素晴らしい観賞式庭園で、八雲はこれを眺めて作品にも著しました。
それから130年以上も経った今も、ほぼ当時のままの姿で保存されています。
小泉八雲旧居で生まれた作品 ~「日本の庭」~
八雲が見た旧居の庭の景色は、八雲の著書『知られぬ日本の面影』に収録された短編「日本の庭」に詳しく記されています。
これは八雲が日本に来て初めて著した本で、1894年(明治27年)に出版されました。
庭の木々や風景・生き物・庭石・石灯籠などについて情緒豊かに記されています。
八雲は特に広々とした縁側から眺める庭を好みました。
以下は現在も旧居で見られる庭のようすです。
①南側の庭
街の喧騒から隔絶された、わびさびが漂う静かな庭。
枯山水の庭で南西の隅にはシャチホコがあります。
この庭には見事なサルスベリの木があり、毎年7月下旬~8月末ごろまでピンクの美しい花を咲かせます。
②西側の庭
築山風の庭で苔が美しく、水をたたえた石鉢や灯籠があります。
③北側の庭
八雲のお気に入りの庭。
地面には玉石が敷きつめられていて、中央に小さな池があります。
池の中には小島があり、眺める方向によっては彼方に島が浮かぶ本物の湖のように見えます。
小島と池の周囲には、盆栽のように美しい松やツツジなどが植えられています。
池の中には生き物たちが住んでいて、夏の夕暮れにはカエルがにぎやかに合唱します。
このカエルを狙う蛇も訪れます。
蛇に食べられるカエルを可哀想に思った八雲と小泉家の人々は、しばしばカエルを助けたそうです。
旧居の家主・根岸家と小泉八雲とのきずな
小泉八雲旧居は、旧松江藩士だった士族・根岸家の家でした。
八雲が絶賛した素晴らしい庭は、八雲に旧居を貸した根岸干夫(たてお)の父・根岸小石(しょうせき)によって造られました。
当時、根岸干夫は簸川郡(現在の出雲市)の郡長だったため、空いていた旧居を八雲に貸したのです。
干夫の長男の根岸磐井(いわい)が八雲の教え子だったため、そのご縁でした。
八雲が松江を離れ、1904年(明治37年)に没した後、根岸磐井は勤めていた日本銀行を辞めて松江に戻りました。
そして一部が改築されていた旧居を復元し、八雲が愛した旧居の保存に尽力したのです。
そのかいあって、小泉八雲旧居は今も往時の姿のままで残されています。
さらに1940年(昭和15年)には国の史跡に指定されて、今は松江市が管理しています。
(写真:南の庭を眺める根岸磐井夫妻)
小泉八雲旧居の春夏秋冬
小泉八雲旧居では、春夏秋冬ごとにさまざまな風景が見られます。
南と西の縁側はほぼ全面が明治時代の窓ガラスで、雨や雪の日でも風情ある景色を楽しめます。
また、八雲が「日本の庭」に記した虫の音(秋)や、カエルの鳴き声(初夏~夏)なども聞くことができます。
旧居の春
松江の長い冬が明け、庭の木々が芽吹きの季節を迎えます。
新芽の黄緑や常緑樹の緑が輝き、梅の花が春の先触れを告げます。
同時に赤い木瓜(ぼけ)の花が開き、庭を鮮やかに彩ります。
初夏が近づくとツツジの花も咲き始めます。
旧居の夏
初夏になると庭の緑はいっそう濃くなり、どこからか現れたカエルが鳴いたり、池に飛びこんだりします。
北の庭の池には睡蓮や蓮が咲き、みずみずしい季節の到来を告げます。
夏の盛りには南の庭にサルスベリの花が咲き、鮮やかなピンクの花々が8月の終わりごろまで見られます。
カエルのほかにもヘビや昆虫など、旧居の豊かな自然に惹かれた生き物たちが次々と訪れます。
旧居の秋
秋は虫を好んだ八雲の待望の季節!
日が暮れると鈴虫やマツムシ、コオロギ、クツワムシなどが澄んだ鳴き声を響かせます。
旧居の冬
松江の冬は雪がよく降ります。
雪をこんもりかぶった庭の木々が和の情緒を漂わせます。
八雲が旧居に住んだのは6月から11月までの5カ月間だったため、この景色は見られなかったかもしれません。
ですが、なぜか八雲の作品の息吹を感じます。
- DATA
国指定史跡 小泉八雲旧居
HP:https://www.hearn-museum-matsue.jp/residence/
住所:島根県松江市北堀町315
電話:0852-23-0714
【開館時間】
4月1日~9月30日:8:30-18:30(受付18:10まで)
10月1日~3月31日:8:30-17:00(受付16:40まで)
休館日:年中無休
※館内メンテナンスのため年数回の休館日あり
入館料:大人310円/小・中学生150円
※団体割引あり(20名以上)
※障がい者手帳、療育手帳などの所持者と介護者1名は無料
※お得な2館共通券(小泉八雲記念館・小泉八雲旧居)あり
- DATA
小泉八雲記念館
HP:https://www.hearn-museum-matsue.jp
住所:島根県松江市奥谷町322
電話:0852-21-2147
【開館時間】
4月1日~9月30日:8:30-18:30(受付18:10まで)
10月1日~3月31日:8:30-17:00(受付16:40まで)
休館日:年中無休
※館内メンテナンスのため年数回の休館日あり
入館料:大人410円/小・中学生200円
※団体割引あり(20名以上)
※障がい者手帳、療育手帳などの所持者と介護者1名は無料
※お得な2館共通券(小泉八雲記念館・小泉八雲旧居)/3館共通券(松江城天守・小泉八雲記念館・武家屋敷)あり
取材協力・
写真提供:
小泉八雲旧居・小泉八雲記念館/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)