島根県松江市の宍道町(しんじちょう)来待(きまち)地区のまわりでしか採れない、「来待石(きまちいし)」。
その貴重な石の歴史を、多彩な展示と資料で紹介しています。
アートなオブジェや石の匠たちの技が見られるほか、彫刻・陶芸などの体験もあり!
来待石とそれが生み出した文化に触れて、島根の暮らしを支えた石の秘密をかいま見てみましょう。
~ 目次 ~
「来待石」のすべてがわかるミュージアム! 島根の暮らしを支えてきた石とは?
来待石(きまちいし)。
あまり聞いたことのない名前ですが、島根でしか採れない、島根の暮らしに古くから役立てられてきた石です。
出雲の伝統工芸品「出雲石灯ろう」や、石州瓦(せきしゅうがわら/島根県西部 特産の瓦)の釉薬(ゆうやく/焼き物を焼く時にかける“うわぐすり”)にも使われていて、島根の暮らしには無くてはならない存在です。
その特長は、全体の質が一定で柔らかいこと。
そのため採掘や加工がしやすく、もっとも古い例では、古墳時代の石棺に使われていました。
さらに江戸時代には、「御止石(おとめいし)」と呼ばれて、松江藩の許可なしでは販売できなかった珍重されていました。
そして現代。
科学的に分析されて、さらに来待石の有益性が見直されています。
浄化作用に優れた「ゼオライト※」を約30%も含み、耐火性にも優れているため、建物の材料に最適なことがわかったのです。
島根旅行でよく目にする赤瓦の家並みも、この来待石によるもの。
来待石を知れば、島根と出雲にもっと詳しくなれます!
※ゼオライト(沸石/ふっせき)
多孔質(穴がたくさん開いた構造)で、他の物質や気体をよく吸着する石。
さらに土や水の中にあるホルムアルデヒド・アンモニア・リン等の有害物質を軽減する働きもあって、水の中の有機物質を除去する効果も持っているため、観賞魚の水槽の濾過材などに使われている。
島根の暮らしを支えてきた、万能の石!
このように、来待石は古くから島根の人々の暮らしを支えてきました。
ですが、その使い道は時代によってさまざまです。
そのため来待石の歴史を知れば、島根の歴史の流れと文化までもがわかります!
神話の国の秘密に迫れる、穴場の旅行スポットです。
【来待石の使い道の変遷】
●古墳時代
古墳の石棺(貴人を埋葬したひつぎ)や、石室(石棺を納めた部屋)
●中世
石仏、石段、敷石、石垣、石塔など
●江戸時代
建材、灯ろう、狛犬(唐獅子)、石州瓦・石見焼(いわみやき/島根県西部の焼き物)の釉薬(うわぐすり)、竈(かまど)、掘炬燵(ほりごたつ)、井戸の枠、石臼(いしうす)、手水鉢(ちょうずばち)、松江城の石段や水路など
●現 代
・出雲石灯ろう
庭や神社、お寺などに置かれる照明。
1976年(昭和51年)に、石製品としては初めて経済産業大臣(当時は通商産業大臣)が指定する「伝統的工芸品」に選ばれました。
来待石で作られた石灯ろうは、早く苔むして趣(おもむき)のある色に変わるため、「石の美術品」として好評。温かで柔らかな肌あいと、美しい色あいもあって、空間を温かく演出します。
・ストーンライト(照明)
庭園、ベランダ、玄関、室内などに置かれるモダンなライト。
玉造温泉を流れる「玉湯川」の岸や、JR宍道駅などで見られます。
・建材
建物の外壁や床材、川の護岸工事などに使われます。
旅行スポットでは、「松江歴史館」前の敷石などで見られます。
・如泥石(じょでいいし)
江戸時代の木工家・小林如泥(こばやし じょでい)が考えだしたと言われている、円柱形の波止石です。
※なみどめいし/海岸から海に突き出すように置いて波を防いだり、船に荷物を積む足場などにする石
島根の旅行スポットでは、宍道湖に浮かぶ嫁ヶ島や、その近くの沿岸などに設置されています。海のテトラポットのように、宍道湖の波が沿岸を浸食するのを防いでもいます。
「来待石」が含むゼオライトによる浄化作用のため、苔や水草などの植物が生えやすく、水辺の生き物が好む環境を創り出す効果もあります。
・その他の用途
彫刻、置物、ピザ窯、金魚鉢、ペットの墓石、バードバス(小鳥用の人工的な水浴び場・水鉢)など
「来待石」を見て、触れて、島根の暮らしを感じよう!
来待石の歴史と特長を知ったなら、次は実際に触れてみましょう。
『モニュメント・ミュージアム 来待ストーン』は、以下の3つのエリアで構成されています。
各エリアごとに違う体験ができるので、もらさず回ってみてください!
①石の広場 ~ 屋外に展示された来待石のモニュメントや彫刻、採石場の跡などを見学できる
②博物館(ミュージアム) ~ 来待石の歴史と文化を紹介
③体験工房・陶芸館 ~ 来待石の彫刻や、来待石から作られた釉薬を使った陶芸などができる
石の広場 ~ 「来待石」を見て・触れる ~
来待石が採掘されていた「石切場」の跡と、来待石で造られた彫刻などが見られるエリアです。
見て、触れて、感じて、来待石の優れた性質と、島根の暮らしとの関わりを感じてください。
①石のトンネル
来待石の岩盤を貫くトンネルで、駐車場と博物館とを結んでいます。
長さ約65m・幅約4mもの長さを抜けると、迫力の「石の広場(石切場の跡)」に到着! 解放感と雄大さに驚きます。
②来待石 採石場跡 (石の広場)
石のトンネルを抜けた先にある、採石場の跡です。
そびえ立つ絶壁の高さは約25mもあり、かつては「三才谷の大岩(みさいだにのおおいわ)」と呼ばれていました。
表面に見えるスジ模様は、マサカリ(つるはし)を使って石を切り出した手掘りの跡です。
この採石場は、1892年(明治25年)頃から1955年(昭和30年)頃までの約60年間、10軒の採石業者によって掘られていました。
広場全体が結婚式場として使われることもあり、演奏会場や、演劇舞台としてもレンタルできます。
※要お問い合わせ・予約
③出雲狛犬(出雲唐獅子)
島根の神社に実際に置かれていた狛犬です。
座った像は「居獅子(いじし)」、四つ脚で身構えている像は「勇獅子(いさみじし)」と呼ばれています。
島根旅行で訪れる神社には、こうした来待石製の狛犬がよく置かれているので、見かけたらよく観察してみましょう。
④真実の口
タヌキの顔をかたどった、「真実の口」です。
「来るのを待つ」という名を持つ来待石で作られているため、口に手を入れて願い事を唱えると、待ち人が来たり良いご縁があると言われています。
島根の縁結びスポットのひとつで、女性やカップルの旅行者に人気です。
博物館(ミュージアム) ~ 「来待石」の歴史と文化を知る ~
迫力満点の屋外展示を楽しんだら、次は博物館の中に入って来待石の歴史を学んでみましょう。
ここでは来待石がどう使われて、どんな物に加工されてきたのかを解説しています。
島根の人々と来待石の関係を知って、古代から続く人と石との絆に想いをはせてみましょう。
①導入部
博物館の近くにある、「下の空古墳」の石室の復元模型などを展示しています。
来待石が古代から島根の人々に使われていたことがわかります。
②「想う」 ~ 来待石のあゆみ
来待石が島根でどう使われてきたのかを、時代ごとにご紹介するコーナーです。
原始・中世・近世・現代・伝統的工芸品として、の5パートあって、時代ごとの使われ方がわかります。
③「創る」
機械化される前の採石作業の様子から、加工の工程までを、「人の手と技」という視点で解説。
昭和40年代の採石作業の再現映像が見られるシアターや、「出雲石灯ろう」を造っている職人の手を型取った製作工程の解説、採石や加工に使われる道具、吹き場(加工の作業場)の再現などがみられます。
④「遭う」
暮らしの中で使われてきた、来待石の道具や建物を展示。
民家の模型や、さまざまな生活用具などを見られます。
生活用具は漬物石・炬燵(こたつ)・竈(かまど)・井戸の枠・石臼(いしうす)・流し台・石見焼きの甕(かめ)と醤油壺)などで、松江城の石垣内の排水溝(築城当時のもの)などまであります。
⑤「探る」
来待石の性質を、科学と地質学の視点から解説したコーナーです。
来待石が採れる「大森-来待層(地層の名前)」は、世界的にも貴重な「パレオパラドキシア(約1,300万年前に絶滅した水陸両生の哺乳類で化石が少なく「謎の動物」と呼ばれている)」の化石が出るなど、地質学的にも重要。
そのパレオパラドキシアの下顎と肋骨や、ヒゲクジラ・サメの歯・貝の化石などを展示しています。
なお、夜は石切場跡がライトアップされて幻想的なムードに包まれるので、同時に営業しているレストランでのディナーがおすすめ!
島根の悠久の歴史を感じられる、ロマンチックな晩餐です。
体験工房・陶芸館 ~ 「来待石」による彫刻や陶芸の教室 ~
さまざまな展示で来待石のことを知ったなら、次は実際に触れてみましょう!
ここ「体験工房」と「陶芸館」では、来待石の彫刻や陶芸ができます。
旅行の珍しいお土産にもなりますよ。
【体験工房】
●「来待石」の彫刻
来待石の石職人が実際に使っている道具を使って、来待石の板石に彫刻します。
ご自分の手で彫ると、来待石の優れた性質をよりしっかり感じられます!
●「来待石」の時計作り
来待石の板石にアクリル絵の具で絵を描いて、オリジナルの時計を作れます。
●「来待石」のペンダント作り
いろんな形の来待石を選んで、ヒモを通す穴を開けて、オリジナルのペンダントにします。
これらの他にも、「体験工房」では国の「伝統的工芸品」に指定されている「出雲石灯ろう」の技術の公開や、継承などを行っています。
日曜・祝日は職人の実演を行なっているので、この時に旅行すればより楽しめます!
【陶芸館】
来待石から作られた「来待釉(焼き物のうわぐすり)」などを使って、オリジナルの陶芸作品を作ります。
あなたならではの一品を作って、旅行の想い出にしましょう!
●陶芸体験
作れるものは、お碗、お皿、コーヒーカップなど。
完成品は2ヶ月前後で焼き上げて、ご来館または着払い発送で受け取れます。
●絵付け体験
焼き上げる直前の陶器に絵付けできる教室です。
これも絵付けした陶器を2ヶ月前後で焼き上げて、ご来館または着払いで受け取れます。
「来待石」の文化と、職人技の継承を目指して。
『モニュメント・ミュージアム 来待ストーン』は、宍道町が松江市に統合される前の1989年(平成元年)に、地域振興の一環として計画されました。
そして平成8年(1996年)の4月20日に、完成してスタート。
以来、来待石の振興と新たな石の事業の創出や、職人の後継者の育成、来待石を生かした生涯学習などを進めてきました。
そして現在は時代に合った新しい商品や、新素材や新技術などの開発も行ない、来待石の市場の拡大と文化・観光振興などを目指しています。
さらに2017年(平成29年)からは、来待石を教育やツーリズムにも活用。
石の資源を守りつつ、普及に努めています。
島根の歴史と共に歩んで、今なお人々の暮らしを支え続けている来待石。
そんな島根の“縁の下の力持ち”に、ぜひ会いに来てみてください。
- DATA
モニュメント・ミュージアム 来待ストーン
HP:https://www.kimachistone.com
住所:島根県松江市宍道町東来待1574-1
電話:0852-66-9050
営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休日:毎週火曜(祝日の場合は翌平日)・年末年始
※陶芸館は火・水・木曜日
料金:390円(博物館 一般入館料) 190円(博物館 小中学生料金)
※その他の各種体験は別途料金要(HPをご参照ください)
取材協力・
写真提供:
モニュメント・ミュージアム 来待ストーン/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)