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出雲神話のふるさとで、その風土に根ざしたお酒を醸す。
中国山地から流れ出る、清らかな水に恵まれた島根県。
そのため各地に酒蔵があって、土地ごとの気候風土を活かしたお酒が数多く造られています。
中でも冬季厳寒な気候と豊かな清水に恵まれた奥出雲で、抜群の存在感を示しているのが、この『簸上清酒合名会社』(以下『簸上清酒』)。
1712年から奥出雲に蔵を構え、明治43年(1910年)に地域の酒蔵を吸収・合併。
先代の蔵元の田村浩三さんの時代には、近年全国の蔵元が仕込みに使うようになった「泡無酵母」の原種を発見して、その発祥元にもなりました。
お酒は蔵名を冠した「簸上正宗」をはじめ、競馬の頂点「G1レース」で史上初の七冠を達成した名馬「シンボリルドルフ号」をイメージした「七冠馬」、さらに奥出雲で今も行われている「たたら製鉄」をイメージした大吟醸「玉鋼」など、全国の日本酒ファンが買い求める逸品ぞろいです。
飲む人々を楽しませて、笑顔にしてくれる『簸上清酒』のお酒。 ~人気の銘柄~
お酒は日々の食事を様々な面でグレードアップさせてくれます。
例えば食材とのペアリング(お酒と食材が互いに引き立てあう組み合わせ)や、人と人とのコミュニケーションの手助け。
美味しい食事をより美味しく感じさせてくれて、一緒に食べる人々との仲を深めてくれます。
そんな日々の食事をより楽しく、より良いものにすることを目指している、という『簸上清酒』。
中でも人気の高い銘柄をうかがってみました。
①七冠馬 純米大吟醸
マスカットのような爽やかな香りが楽しめる、純米大吟醸酒。
よく冷やすとほどよい甘みと酸味が楽しめ、まるで白ワインのような味わい!
鮮やかなブルーのパッケージに書かれた「七冠馬」の書体は、新進気鋭の女流書家・岡西佑奈さんによる新書体だそうです。
酒米は島根県が開発したオリジナルの品種・「佐香錦」を使用。
この「佐香錦」の名前の由来は、出雲市にあるお酒造りの神様クスノカミを祀った「佐香神社」。
「出雲国風土記」には、「この地に神々が集まって酒造りを行ない、180日に渡って酒宴を開いた」と記されています。
「佐香」は「酒」の語源とも言われていて、日本酒発祥の地を伝える由緒正しいエピソードです。
・原料米:佐香錦40%精米
・蔵元小売価格:2,750円(720ml・税込)
※取材時点
②七冠馬 一番人気 純米吟醸
『簸上清酒』の代表銘柄・「七冠馬」の定番のひとつ!
華やかな吟醸香と酒米の山田錦のうま味、スッキリした後味のバランスがよくとれた純米吟醸酒です。
酒名の由来は競馬で最も馬券が売れる人気の馬を指す言葉・「一番人気」。
このように「一番人気のあるお酒になって欲しい」という思いをこめて、「七冠馬」の銘柄ができた初期に命名。今でも『簸上清酒』の超定番として愛されています。
・原料米:山田錦50%精米
・蔵元小売価格:1,815円(720ml・税込)
※取材時点
③七冠馬 ザ・セブン 漆黒のS 特別純米
あらゆる料理に寄り添って引き立ててくれる、オールマイティーな特別純米酒です。
さっぱりした料理から濃厚な味の料理まで、どんな味とも好相性!
『簸上清酒』の蔵元の田村明男さんも、「何を合わせるか迷ったら、とりあえずこれを選びます」と語ります。
温めてお燗にしても美味しく、お好みによっていろんな楽しみ方ができる1本です。
酒名の由来は、競馬のシンボリルドルフ号のオーナーブリーダーの「シンボリ牧場」が、2000年代に輩出した名馬「シンボリクリスエス号(Symboli Kris.S)」から。
2002年と2003年にそれぞれ天皇賞・秋と有馬記念を連覇した同馬は、雄大な馬格と美しい漆黒の馬体の名馬でした。
そんなクリスエス号をイメージしたパッケージと名前を持つお酒です。
・原料米:山田錦55%精米
・蔵元小売価格:1,513円(720ml・税込)
※取材時点
④玉鋼 袋取り斗瓶囲い 大吟醸
『簸上清酒』のフラッグシップ・「玉鋼」。
その中でも少量しか取れない‟袋取り斗瓶囲い”を瓶詰めした逸品です。
‟袋取り斗瓶囲い”とは、お酒の元となる醪(もろみ)を布の袋に入れて、竹の棒に吊るして、自重の圧力だけで滴り落ちてくる雫を集めて、斗瓶(一升瓶10本分)という専用の容器に囲った上で、蔵の中で低温管理されたお酒のこと。
精米から上槽・保管まで、とても丁寧に手間ひまかかけて仕込まれたお酒で、香り高い吟醸香と、上品な澄み切った甘みが楽しめます。
酒名の由来は、現在は全国で奥出雲町でしか行なわれていない「たたら製鉄」で造られる、日本刀の原料「玉鋼」。
先日発表された「令和2酒造年度全国新酒鑑評会」にて、見事に金賞を受賞しました!
・原料米:兵庫県産山田錦35%精米
・蔵元小売価格:6,050円(720ml・税込)
※取材時点
「現代の名工」が醸す味を、蔵元の味として引き継いでいくために。
「日本酒造りは杜氏と蔵人の経験に頼る部分が大きい作業です。そのため松本杜氏が造り上げた味をしっかり引き継いでいき、次代に受け渡すことが大切だと考えています」
こう語るのは、『簸上清酒』の専務の田村浩一郎さんです。
「日本酒業界では、『杜氏が替わったら蔵の味も変わった』といった話を聞くことがあります。これは意図的に変えているなら問題ないかもしれませんが、引継ぎたいのに引き継げなかった、という事では愛飲してくださっているお客様への責任を果たせません。
ですから‟杜氏の味”を‟簸上の味”へと昇華させていくために、職人の経験や感性に頼っている部分と、機械設備やコンピュータで代替できる部分をしっかり認識していくことが大事です。
酒造りの期間中、蔵人にはやることが山ほどあります。
機械が得意なことは機械にさせて、蔵人は継承していくべき事にじっくりと時間をかける――そうすることで、職人の技術の継承と、酒造りの‟見える化”を果たせると思います。
すなわち、持続的な酒造りの実現です」
奥出雲の風土から生まれた日本酒を、全世界に広めたい!
「『簸上清酒』は奥出雲の自然のおかげで酒造りをしてくることができました。ですから今後も酒造りを続けていくためにはどうすれば良いのか、ということを常に考えています」
と田村さんは続けます。
「日本の人口は急激に減っていて、特に島根県は過疎化が進んでいます。
売り上げも働き手も少なくなっていく中で、小規模な蔵にシフトしていくのも一つの手ではありますが、お客様に着実に商品をお届けして、奥出雲の酒米の生産量を維持して、さらに地元に雇用を創出していくためには、やはりある程度の規模が必要だと考えています」
「弊社は日本の酒蔵の中では地元の売上比率が高い方だと思います。今後は島根県外の売上や、海外への輸出を増やしていくことで、生産量を維持していきたいと考えています。
日本酒は‟右肩下がりの産業”と言われてはいますが、一方で海外向けの輸出は年々伸びています。
2020年は新型コロナウイルスの影響で輸出の数量こそ減ったものの、反面、輸出額は9年連続で過去最高額を更新しているのです。
そんな可能性のある海外に目を向ければ、日本酒の市場は人口1億人弱の日本から、30年後には100億人市場に成長すると言われている全世界へと広がります。
そんな大きなポテンシャルを秘めた日本酒にとって、輸出はぜひ取り組むべき課題だと考えています」
「また、島根県外の販路は今まで大手の卸に主にお願いしていましたが、その先にある酒屋さんや飲食店とのコミュニケーションは、まだまだ開拓の余地があります。
実際に飲んでくださるお客様と最も近い方々との関係を強め、より『簸上清酒』の酒を広めていければ、とも思っています」
企業は‟Going Concern = 継続してこそ”。
「目先の利益に捕らわれず、中長期的な視点で時代の課題に取り組んで、『簸上清酒』を育ててくれた奥出雲にも貢献したい――それらを突き詰めることで、奥出雲という地域の存続にも貢献していければ幸いです」
と田村さんは語ります。
奥出雲を愛し、その風土に育まれた誇りを掲げる『簸上清酒』。
その酒造りが奥出雲の発展へとつながるように、真面目に、真摯に取り組んでいます。
- DATA
簸上清酒合名会社
HP:http://www.sake-hikami.co.jp/
住所:島根県仁多郡奥出雲町横田1222
電話:0854-52-1331
営業時間:9:00~17:00
休日:基本的に土曜・日曜
取材協力・
写真提供:
簸上清酒合名会社/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)