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日本の「たたら製鉄」の総本山・奥出雲の歴史がわかる博物館!
島根の東部は、かつて鉄の一大産地として栄えていました。
日本の鉄の約8割を、中国山地にあった「たたら場」が生産していたのです。
その中心地だったここ奥出雲町では、日本刀の原料になる「玉鋼」を作るために、「たたら製鉄」が今も行なわれています。
奥出雲町・雲南市・安来市に残るその歴史と文化は、「出雲國たたら風土記~鉄づくり千年が生んだ物語」として、日本遺産にも認定!
ここ『奥出雲たたらと刀剣館』では、そんな奥出雲町の「たたら製鉄」と、日本美術の逸品である刀剣について知ることができます。
一度は途絶えた「たたら製鉄」の炎を復活! その技術と歴史に興味しんしん。
日本刀を作るためには、極めて純度の高い鉄=玉鋼が欠かせません。
そしてこの玉鋼を作るためには、古代より連綿と受け継がれてきた秘伝の技・「たたら製鉄」が必須なのです。
ですが戦前の1923年(大正12年)に、「たたら製鉄」の炎はいったん途絶えてしまいました。
そして奥出雲の「安来製鋼所鳥上分工場」に、1933年(昭和8年)に軍刀用の玉鋼生産のために新設された「靖国鑢(やすくにたたら)」も、戦後の1945年(昭和20年)に動きを止めてしまいました。
そして日本の貴重な文化財であり、至高の美術品でもある刀剣を作るための玉鋼は、一気に枯渇するように。
そこで「日本美術刀剣保存協会(略称・日刀保)」が、旧「靖国鑢」の施設を復元して、1977年(昭和52年)の11月に、奥出雲で「日刀保たたら」をスタートさせたのです。
「たたら製鉄」を行なうためには、その秘伝を知る村下(むらげ/たたら製鉄の全てをつかさどる総監督)などの技術者たちが欠かせません。
幸い奥出雲には、それらの貴重な技術者たちがまだ健在でした。
さらに「たたら製鉄」に欠かせない砂鉄の採取や、木炭の焼成も当時はまだ行われていて、「たたら製鉄」を復興させることができました。
そのため今も、かつてのような極上の玉鋼を作ることができます。
そして「日刀保たたら」の現在の村下である木原明さんと渡部勝彦さんは、国の「選定保存技術・玉鋼製造技術保持者」の認定を受けています。
奥出雲の秘伝の「たたら製鉄」と、それで作られた見事な刀剣などに溜め息!
ここ『奥出雲たたらと刀剣館』は、「たたら製鉄」と「奥出雲町で作られた刀」をテーマにした博物館です。
このうち「たたら製鉄」ついては、燃料の木炭と原料の砂鉄を調達できる山林の大地主・「鉄師(てっし)」が統べていた伝統的な製法と、現代に甦った「日刀保たたら」の2つを紹介。
日本に唯一残る「たたら製鉄」の操業施設・「日刀保たたら」は非公開なので、その技や様子を知ることができるのは、ここだけ!
さらに「日刀保たたら」で作られた玉鋼や、それを含む鉄の塊・鉧(けら)などと、製鉄作業の貴重な映像などが見られます。
刀剣・ナイフ・アクセサリー …… 極上の「玉鋼」から生まれた逸品の数々
こうしてできた「日刀保たたら」の「玉鋼」からは、新たな鉄製品がたくさん生まれています。
『奥出雲たたらと刀剣館』では、その貴重な品々の一部を展示。
思わず目を奪われる質感と輝きを、間近で見ることができます。
●黒刀「月下の笹」
「『日刀保たたら』の玉鋼をさらに活用しよう」という新プロジェクト・「奥出雲たたらブランド 」から生まれた逸品。
伝統の「たたら製鉄」と玉鋼に、現代の技術やデザイナーのセンスなどを取り入れる試みで、その名のとおり、笹の葉を思わせる優美なフォルムが見事です。
独特の黒い刀身には、金属を黒サビのメッキで覆う富山県の金属加工会社の技術を採用。
これは東京のデザイナー・島村卓実さんが奥出雲の名所・「鬼の舌震(したぶるい)」で見た‟夕闇の中で黒光りする笹”から発想して、富山県の刀匠・高田欣和さんが鍛えました。
その神秘的な姿が人気漫画「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が手にする「日輪刀」にそっくり! と評判になって、これを目当てに訪れるゲストが激増。
昔ながらの刀剣の愛好家たちも、
「こんな色や形の刀が作れるのか!」
と、伝統的な刀剣にはない色と技術に感動するそうです。
黒いメッキには、サビや腐食を防ぐ効果もあるそう。
また、刀身の裏表が鎬造と平造と異なることや、反りも普通より浅めと、全体的に珍しい造りです。
また、『黒刀「月下の笹」』のほかにも、「奥出雲たたらブランド」には刀の鍔(つば)・ナイフ・包丁などがあります。
中でも人気だという玉鋼製の柳葉包丁は、なんとお値段30万円!!
ですが日本の伝統的な刀剣の技と美しい「玉鋼」を家庭で使えるとあって、注目が集まっています。
特に昔ながらの刀剣マニアの人々が、ロマンを感じて手にとってくれるそうです。
ちなみに「鬼滅の刃」の炭治郎の刀に似た「月下の笹」も、デザイナー・島村卓実さんの会社「クルツ」を通じて450万円で受注生産してくれます。
●「TATALITE(タタライト)」ジュエリー
「たたら製鉄」をすると出る不純物・「鉄滓(てっさい)」を活用したジュエリー。
不純物と言っても釜土に含まれた酸化ケイ素のために、黒曜石のような美しい輝きがあります。
この、たたらからこぼれた溶岩状の「鉄滓(てっさい)」を《TATALITE》と名付け、ジュエリー作家協力のもと、古代のロマンが漂う、新しくも伝統的なジュエリーが作られました。
「たたら製鉄」の工程を体験! 3種類の「吹子(ふいご)」を動かしてみよう
「たたら炉」に風を送って炎の勢いを高める道具=「吹子(ふいご)」は、時代ごとに進化してきました。
『奥出雲たたらと刀剣館』では、これら「たたら製鉄」で使われてきた3種類の「吹子」を、すべて実際に動かすことができます。
伝統の「たたら製鉄」を自ら体験できる、これもまた貴重な展示!
ただ見るだけでなく、ぜひ参加してみましょう。
1.最古の「踏み吹子」
2人でシーソーのように踏みながら操作します。
お互いの息が合わないと上手く風を送れないため、コンビネーションが大事。
カップルで息を合わせたり、小さなお子さんに兄弟姉妹でチャレンジしてもらったりと、思わず笑顔がこぼれます。
2.現在も現役の「吹き差し吹子」
操作は意外なほど簡単なのに、しっかり風を送れる2番目に古い「吹子」です。
とはいえ、これは今の『日刀保たたら』でも実際に使われています。
そちらは人力だけでなく、電力で動かしています。
3.最新式の「天秤吹子」
約300年前にできた「吹子」ですが、「吹子」としては最新式で、また、もっとも大きな「吹子」でもあります。
「番子(ばんこ)」と呼ばれる係が一時間ほど連続で動かす仕組みで、『奥出雲たたらと刀剣館』では、ゲストにかわりばんこに体験してもらっています。
ちなみに「かわりばんこ」という言葉は、まさにこの「番子」が語源!
そんなお馴染みの言葉の由来を知ることもできます。
実はエコな「たたら製鉄」! 自然と共生してきた歴史と文化
奥出雲の「たたら製鉄」の秘法や、それを受け継いだ「日刀保たたら」、また、たたら製鉄が生み出した資源循環型農業、農文化などは、「日本農業遺産」に認定されています。
「鉄を作る技術なのに‟農業”?」
と思われるかもしれませんが、奥出雲では、「たたら製鉄」を自然環境に負荷をかけずに続けていくために、独自の森林の利用管理が行われていました。
鉄づくりの材料である砂鉄を山を崩して採った跡地に、棚田を造ってお米を育てたり。
牛を放牧したり、糞をたい肥にして活用したり。
さらにその牛が、「たたら製鉄」で作られた鉄製品を運んだり。
環境破壊ではなく農業の発展につながる、エコで豊かな文化・「アグリカルチャー」が育まれたのです。
有名映画などの影響で「たたら製鉄=自然破壊」というイメージが広まってしまいましたが、実は奥出雲の「たたら製鉄」は自然資源をうまく利用して環境を修復し、山や生き物たちと共存できる技術なのです。
こうした歴史、ストーリー技術を誇りに「世界農業遺産」の認定も目指しているそうです。
自然の恵みに感謝しながら、千年以上も受け継がれてきた「たたら製鉄」。
神話のふるさとで今も続く、エコとロマンにあふれた製鉄法です。
- DATA
奥出雲たたらと刀剣館
HP:https://okuizumo.org/jp/guide/detail/208/
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/okuizumotataratotoukenkan/
住所:島根県仁多郡奥出雲町横田1380-1
電話:0854-52-2770
営業時間:9:30~17:00(最終入館受付16:30)
休日:月曜・年末年始(12/28~1/4)
入館料:大人(高校生を含む)530円・小中学生260円
※20名以上の団体の場合は大人(高校生を含む)410円・小中学生210円
日本刀鍛錬実演特別入館料:大人(高校生を含む)1270円・小中学生630円
※20名以上の団体の場合は、大人(高校生を含む)1050円・小中学生530円
取材協力・
写真提供:
奥出雲町、奥出雲町地域づくり推進課、奥出雲たたらと刀剣館/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)