「江津(ごうつ)市をクラフトビールで元気にする」ために立ち上げられた、マイクロブルワリー(小規模醸造所)。
かつて石見(いわみ)と呼ばれた自然豊かな島根県西部で、「この地ならではの地酒を造る」ことを目指して「石見麦酒(いわみばくしゅ)」と名付けられた。
~ 目次 ~
石見の恵みを個性豊かなクラフトビールと果実酒に!
のどごし爽やかなビールや、香り豊かな果実酒。
近年のマクロブルワリー・ブームによって、日本各地に個性的なこれらが誕生しています。
「マイクロブルワリー」とは、その名のとおり「小さな醸造所」という意味です。
手と目の行き届く範囲で、「手工芸品(クラフト)」のような丹精こめた「クラフトビール」を生み出す――そんなポリシーが支持されて、全国各地に新たな“地酒”が誕生しています。
今回ご紹介するのは、そんな「マイクロブルワリー」のひとつ・『石見麦酒』。
島根県西部の江津市を流れる一級河川・江の川(ごうのかわ)の恵みを受けた自然栽培の大麦や、日本海から吹く風に育まれた柚子などの農産物を活かし、個性豊かなクラフトビールと果実酒を生み出しています。
ビールはこんなにも自由! 味も飲み口も個性とりどり。
『石見麦酒』の自慢は、とにかくお酒の種類が多い事です。
店名にもなっている麦酒=ビールをはじめ、スパークリングワインやシードルまで、実に多彩。さらに今後は日本伝統の「どぶろく」も造り始めるそうです。
それでいて、定番のビールは「飲みやすさ」で好評。
尖った個性的な銘柄もありますが、1年中買える定番品はアルコール度数控えめで、苦みも一定レベルに抑えているそうです。
「そのためか、幅広い世代の方にご好評頂いています。変わり種の副原料を使っているもの以外は、おおむねフルーティーで滋味豊かで、どなたにでも楽しんで頂ける味になっていると思います」
そう語るのは、工場長の山口厳雄(いつお)さんです。
広島市の出身でありながら、パートナーかつ代表取締役の山口梓(あずさ)さんと共に、江津市に移住して『石見麦酒』を立ち上げました。
梓さんも横浜市出身のIターンで、都会的なセンスでのどかな石見に新風を巻き起こしています。
ベーシックから“特別”まで、自由自在にお酒を作る!
「うちのビールを飲んだお客様には、ぜひ『ビールってこんなにも自由なんだ!』という驚きを味わって頂きたいですね。実はコンビニやスーパーで売っている大手メーカーのビールは、大抵どれも同じ種類=醸造法なんです。“ラガースタイル”の“ビルスナー”という種類で、本来、ビールにはもっとたくさんの種類があるんです。
例えばIPA(ホップの量が多くて香りと苦みが強い)・ペールエール(色が濃くて香りとコクが豊か)・ベルジャンホワイト(注ぐと白く濁る、クリーミィでスパイシーな白ビール)・スタウト(ローストした大麦で作る、苦みと香りが濃厚な黒ビール)など、色も味わいも実に多彩なんです。
もちろん、アルコール度数やのどごしにもかなりの違いがあるので、ぜひお好みに合うビールを探してください」
こう厳雄さんが語るように、『石見麦酒』のビールはマイクロブルワリーにしては驚きの種類! もちろんスパークリングワインやシードルも豊富で、選ぶのに困ってしまいそうです。
中でもおすすめで、かつ誰にでも飲みやすいビールを紹介してもらいました。
●石見神楽麦酒「福舞(ふくまい)」
1年中買える定番商品で、石見の伝統芸能「石見神楽(いわみかぐら)」をイメージした、「石見神楽麦酒」シリーズのひとつです。
副原料は江津市の隣、浜田市の三島ファームで育てられた有機栽培の安納芋(あんのういも)。甘味とコクがある濃厚なブラウンエールは、誰の舌にも馴染みます。
なお、「石見神楽麦酒」シリーズには、ほかにも以下の2種類があります。
●蛇舞(じゃまい)・・・ゆず皮で醸した爽やかなフレーバーで、スサノオノミコトがヤマタノオロチを酔わせたお酒をイメージしました。
●姫舞(ひめまい)・・・フルーティーなホワイトビールで、出雲名産のイチジクを使っています。
クラフトビールの定番品は、ほかにも数字で原料や醸造法を表した「レギュラーシリーズ」と、スパークリングワインの「シードルシリーズ」があります。
「レギュラーシリーズ」のおすすめは、以下の銘柄です。
●セゾン778
2020年の春まで販売していた「セゾン744」のリニューアル品。『石見麦酒』が4周年を迎えるにあたって、原料と味わいを一新しました。
ライトボディーと爽やかなのどごしが特徴だった「セゾン744」を、スパイシーで刺激的な味わいにチェンジ。さらに副原料のフルーツビール(果物の皮)をゆず→八朔(はっさく)に変えて、キーホップもネルソンソービンに変えました。そのため、華やかな香りがより際立つ印象深い一品となっています。
「これに使っている八朔は、“日本北限の八朔”と呼ばれている隠岐の島産です」と厳雄さん。
※隠岐の島:出雲と松江の約40キロ沖にある群島
「この“北限の八朔”をPRしたい!」という隠岐の島の人々の想いを受けて、厳雄さんは隠岐の島を繰り返し訪問。八朔の質や特徴を吟味して、爽やかな清涼感と軽い苦みを生かし、スッキリした味わいに仕上げました。
なお、銘柄名の数字は7(セゾンスタイル)・7(キーホップ:ネルソンソービン)・8(八朔の8)をそれぞれ表しているそうです。
都会育ちの夫婦が石見で「麦酒」を造る理由とは?
『石見麦酒』が誕生したのは、2015年。
「いろんな原料を使った自由なビールとお酒を造りたい!」と願った山口さん夫妻が、江津市のビジネスプラン・コンテストに応募したのがきっかけでした。
『目指せオクトーバーフェスト!! 街全体がブルワリー』と題した企画で、見事、大賞を受賞。こうして生まれた『石見麦酒』は、石見初のマイクロブルワリーとなりました。
さらに独自の“石見式醸造法”によって、「島根の第4のワイナリー」にも認定。全国的に名高い島根ワイナリーと奥出雲葡萄園、そして2018年にオープンした石見ワイナリーに続いての快挙で、以来、“石見の地酒のニューウェーブ”として注目されています。
「我が町」「我が村」の名物でお酒が造れる! 地域おこしの応援にも尽力。
さらに『石見麦酒』では、OEM(オリジナルブランドのビールや果実酒造り)も受け付けています。発注は100ℓ~150ℓの小ロットから可能で、これも各地の名産品のPRにつながっています。
「そして味や飲み口などのご希望も細かく承れるので、『希望がほぼ実現できた!』と喜んで頂けています。普通のブルワリーのOEMは1トン単位が基本ですが、これはビールだと3,000本にもなります。そのためせっかく名産品をお酒にしようと思い立っても、『量が多すぎてオーダーできない』という方々が多かったんです」
ですが、『石見麦酒』はビールなら150本、シードルやスパークリングワインなら50本からオーダー可能。お酒にしにくい素材が無いわけではありませんが、基本的にはどんな素材からでも造れるそうです。
「ビールはとても自由度が高いお酒で、副原料などの制限がほぼ無いんです。たとえばカボチャやニンジン等の野菜から、牡蠣などの海産物まで作れるので、隠岐の島名産の岩牡蠣のお酒なども造りました」 と厳雄さんは胸を張ります。
試練にみまわれても、常に前を向いて進む。
このように、クラフトビール界にもマイクロブルワリー界にも大きな旋風を巻き起こしている『石見麦酒』。ですが、いま世間を騒がせている新型コロナウイルスによって、思わぬ影響を受けてしまいました。
「GWのイベント用のオーダー約9,000本が、ほぼ全てキャンセルになってしまったんです。さらに6月にブルワリーを移転するため冷蔵庫の電源を切らなくてならず、うち1,000本は引っ越し先にも持って行けません。
そこで、これらのビールを返礼品としたクラウドファンディングを考えました。お客様はお得にクラフトビールが飲めて、僕たちは身軽に引っ越せる(笑) そんなプランになっていますので、ぜひお助けください!」
●『石見麦酒』 クラウドファンディング(5月29日(金)23:00まで)
「新型コロナ終息後に皆さんと乾杯!飲む応援者募集します!」
「新たな店舗では、クラフトビール・果実酒・発泡酒・どぶろく・リキュールなど、ありとあらゆるお酒が飲めるタップルームと、その醸造体験ができる醸造所を併設します。もちろん『風の国』のレストランでも飲めますし、温泉に入った後にゆったりくつろぎながら、帰りの心配をせずに泊まることもできます。また、お酒マニアや同業者の方向けに、“石見式醸造法”の研修と『風の国』の宿泊のセットプランもご用意します」
大きな試練にみまわれながらも、明るく前向きに歩む『石見麦酒』と山口さん夫妻。
“石見と島根を元気にする”マイクロブルワリーの新たな旅立ちに、ぜひエールを送ってみてはいかがでしょうか?
- DATA
石見麦酒
HP:http://www.iwami-bakushu.com/
オンラインショップ:http://shop.iwami-bakushu.com/
住所:
島根県江津市黒松町1069-114 (~2020年5月31日 ※下の地図参照)
島根県江津市桜江町長谷2696 (2020年6月1日~)
電話:
0855-25-5740(代表)
0855-25-5740(オンラインショップ)
営業時間:10:00~16:30
休日:不定休
取材協力・
写真提供:
石見麦酒/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)