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まるで生きているみたい! 感情豊かな仕草にひきこまれる、日本で唯一の「糸操り人形」。【益田糸操り人形/島根県益田市】

2021年12月27日

糸操り人形 昭和38年に「島根県無形民俗文化財」に指定された、情緒あふれる人形浄瑠璃。
かつて東京の浅草で上演されていた「糸操り人形」が、島根に伝わり、日本で唯一ここだけに残りました。

その見どころは、約70センチの人形を13本~18本もの糸で操る、繊細かつ優美な動き!
小首をかしげたり、手足を柔らかく動かしたりと、豊かな感情を熟練の「人形遣い」が表現します。

年に3回、島根県益田市の「島根県芸術文化センター グラントワ」で上演。
日本でもここでしか見られない、とても貴重で珍しい人形浄瑠璃です。

※上演回数は会場等の都合で増減する場合あり

情緒あふれる人形浄瑠璃

唯一無二! 島根県の益田市でしか見られない、江戸発祥の人形浄瑠璃。

「糸操り人形」とは、舞台の天井の足場から、人形を糸で吊るした「手板」という道具を使い、人形に演じさせるお芝居のこと。

中でも10数本の糸をつないだ四つ目の「手板」を使う江戸系の糸操り人形と、出雲で生まれたと言われる5本の糸で操る糸操り人形は、今では全国でも数か所にしか残っていません。

『益田糸操り人形』は、このうちの「江戸系」。
さらにこの浅草生まれの繊細かつ優美な「糸操り人形」は、今ではここ、島根県益田市に残るのみ!

今では江戸(東京)でもすたれてしまい、益田市だけで見ることができます。

熟練の技 「人形遣い」が舞台の約1.5メートル上の「歩み板」に乗り、そこから人形を操る。
糸が長くて本数が多いため、手だけでなく口でも操ったりと、熟練の技が必要!

それだけに繊細かつ優美な動きになって、感情豊かな仕草にひきこまれる。

唯一無二の伝統芸能! 日本各地に「人形浄瑠璃」はたくさんあるけど、とても珍しい唯一無二の伝統芸能!
そのため発祥地の東京などからも見に来る人がいっぱい。

益田糸操り人形 益田市に「糸操り人形」が伝わったのは、明治20年ごろ。
東京の浅草で「糸操り人形」を上演していた山本三吉さんが、その衰退にともない、つてを頼って益田に移住した。

そして益田の浄瑠璃愛好者の集まり「小松連(こまつれん)」に迎えられて、『益田糸操り人形』を始めた。

人形・語り部・音楽・黒衣(くろご)でつづる、夢幻の人形芝居! ~ 『益田糸操り人形』の魅力 ~

『益田糸操り人形』は、物語を語る「太夫」、音楽(義太夫節)をかなでる「三味線」、そして人形を操る「人形遣い」、さらに、彼らを助けたり小道具の上げ下げなどを行なう「後見(いわゆる黒衣(くろご))」の4役で演じます。

古来の伝統的な手法で操るお芝居は、とても幻想的!

島根県、なかでも石見(いわみ/島根県西部)の伝統芸能と言えば「石見神楽(いわみかぐら)」ですが、そのにぎやかな囃子(はやし)と勇壮な舞に比べて、しっとりした情緒が漂います。

人形浄瑠璃 静謐(せいひつ)なムードと、巧みで麗しい人形たちの動き。
これを見るためだけに益田に行ってみたい、素晴らしい人形浄瑠璃!

約1時間半~2時間半の公演もあっという間! 何度でも鑑賞したい多彩な演目。

『益田糸操り人形』の主な演目には、以下があります。
これらを含めて全部で15演目あって、ここ10年間ほど上演されていない幻の演目もあり。

そのため全てを鑑賞するのは難しいものの、以下の代表的な演目だけでも鑑賞してみたいものです。

●傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段
(けいせいあわのなると じゅんれいうたのだん)

傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段

もっとも上演回数の多い、定番の演目。
お殿様の刀を取り返すために盗賊になった十郎兵衛(じゅうろべい)・お弓(おゆみ)の夫婦と、彼らを慕って探す旅をする、娘のお鶴(おつる)の物語です。

登場する人形はお弓(親)・お鶴(子)の2体ですが、その背景や情景が豊かに演出されます。

●三十三間堂棟木の由来 平太郎住家の段
(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい へいたろうすみかのだん)

三十三間堂棟木の由来 平太郎住家の段

病に苦しむ白河法皇の平癒祈願のために、三十三間堂の棟木として伐られてしまう柳の木の精と、彼女が嫁いだ夫の平太郎の物語。

●伊達娘恋の緋廉子 八百屋お七の段
(だてむすめこいのひがのこ やおやおしちのだん)

伊達娘恋の緋廉子 八百屋お七の段

さまざまな物語で語られている、「八百屋お七」の一説です。
ここでのお七も八百屋の娘ですが、離れ離れになった一時の恋人に会うためではなく、預かっていた殿さまの家宝を盗まれて切腹を命じられそうになった小姓の恋人・吉三郎のために、刀が戻ったことを知らせようと、火の見やぐらの太鼓を打ちに行きます。

恋人を助けようとする、乙女の一念の物語です。

●絵本太功記 十段目 尼ヶ崎の段
(えほんたいこうき じゅうだんめ あまがさきのだん)

絵本太功記 十段目 尼ヶ崎の段

京都の本能寺で主君の小田春長を討った光秀と、その母の皐月、妻の操、子の十次郎、その許嫁の初菊など、様々な人物が織りなす人情の機微の物語。

主君の仇を討とうとする間柴久吉との間に織りなされる悲劇が、戦国の世の無常をかなでます。


これらの公演の1回の長さは、約1時間半~2時間半。
演目によって長さが違い、体験講座などを行なうこともあるため、つど時間が変わります。

さらに1つの演目の中に「〇〇の段」など複数のパートがあって、演目の前後には神楽の儀式舞(場を清めるための舞)のように、以下の演目を上演します。

●寿三番叟 (ことぶきさんばそう) / 前

寿三番叟 (ことぶきさんばそう)

古い猿楽芸を伝承した演目と言われており、狂言では「能の翁」のような祝言曲として扱われています。

●山本一流獅子の一曲(やまもといちりゅうししのいっきょく) / 後

山本一流獅子の一曲(やまもといちりゅうししのいっきょく)

おめでたい獅子舞を「糸操り人形」が演じます。
この演目に登場する獅子は、「糸操り人形」が益田に伝わった当時のもので、とても貴重な存在!

絵本太功記 十段目 尼ヶ崎の段 「島根でこんな素晴らしい人形浄瑠璃が見られるのを初めて知った!」
「全国でここにしかない貴重な文化なので、ぜひ上演し続けてほしい」
と、応援するファンがたくさん。

伝統芸能に興味がなかった人から同じ業界のプロまで、たくさんの人を魅了し続けている。

演目:絵本太功記 十段目 尼ヶ崎の段
(えほんたいこうき じゅうだんめ あまがさきのだん)

貴重な伝統芸能を守り伝えていくために ~継承の取り組み~

『益田糸操り人形』の人形遣いは、今は約20人。
上は70代後半のベテランから、下は10歳の小学生まで(!)日々その技をみがいています。

高校生や20歳前後の人もいて、こうした若い継承者が育っているのは、「グラントワ」と益田市の取り組みのおかげ。
島根各地の学校や公共施設でも公演して、その存在を広めています。

そんな『益田糸操り人形』を見た地元の若者たちが、
「自分もやってみたい!」
と何人も参加。

昔は年配の人たちが細々と守り伝えていましたが、後継者が着々と増えています。

島根各地の学校や公共施設でも公演

その技を伝える『益田糸操り人形 保持者会』では、今も伝統を一緒に受け継いでくれる仲間を募集中!
浄瑠璃・三味線・人形遣い・後見などいろんな役があるので、それぞれ得意だったり向いていそうな役ができます。

練習は、毎週金曜日に「益田市立 市民学習センター」で実施。

気軽な見学も大歓迎なので、
「我こそは!」
と思った方はぜひ訪ねてみてください。

益田糸操り人形 『益田糸操り人形』は、「グラントワ」のほか島根各地の学校や公共施設などでも上演!
県外への出張公演もしていて、スケジュールはHPやFacebookでお知らせ。

- DATA
益田糸操り人形 (益田糸操り人形 保持者会)

HPhttps://www.grandtoit.jp/theater/itoayatsuri/
Facebookhttps://www.facebook.com/390714351022470

住所:益田市有明町5-15 島根県芸術文化センター「グラントワ」内

お問い合わせ:0856-31-1866
営業時間:9:30~17:00
休日:毎週火曜日、年末年始
(火曜日が祝日の場合は、その翌日以降の最初の休日でない日が休館日)
※催しにあわせて休館日を変更する場合あり

取材協力・ 写真提供: 島根県芸術文化センター「グラントワ」,益田糸操り人形 保持者会/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

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