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【有限会社はんだ/江津市】自然の摂理に逆らわない“自然栽培”で、健康な食べ物を育む。

2020年5月25日

高級レストランや料亭などに引っ張りだこのブランドごぼう・「はんだ牛蒡」を育てている“自然栽培”の旗手。中国山地の大自然の中で、自然の摂理に逆らわない農業に取り組みながら、健やかなごぼう・大豆・にんじん・お米・里芋を栽培している。

自然の摂理に逆らわなければ、生でかじれる、皮を剥かなくてもいい“ごぼう”ができる!

ごぼうは皮を剥いて、水にさらしてアク抜きするもの――そんな常識をくつがえした、驚きの“ごぼう”があります。

『有限会社はんだ』の「はんだ牛蒡」。
島根県の中央、豊かに流れる一級河川・江の川(ごうのかわ)に面した江津市桜江町で、反田孝之(はんだ・たかゆき)さんが“自然栽培”で育てている奇跡のようなごぼうです。

“自然栽培”とは、普通の農業では当たり前に使われている肥料を施さない、農薬もかけないナチュラルな農法です。
作物を不自然に太らせる化学肥料はもちろん、有機農業で使う「堆肥(たいひ/草木・葉っぱ・海藻などの植物や、鶏ふん・牛ふん等を発酵させた肥料)も与えません。

それでなぜ、名だたる料理人や高級スーパーなどに引っぱりだこのごぼうができるのでしょうか?
その秘密を、作り手の反田さんに伺ってみました。

反田さんが作っている「はんだ牛蒡」。生で齧れる、サラダにもできる澄みきった味と、旨みと香ばしさあふれる味わいは“自然栽培”の賜物!

畑や田んぼに入れるのは、そこで生じた農作物の残りや稲わら等のみ。自然を循環させて、体にも環境にも優しい農作物を作っている。

種は自ら作った作物から採って撒き、田畑輪換(でんばたりんかん/同じ土地を交互に田んぼと畑にして、土の性質を変えていく農法)も行わない。土の自然な変化にまかせて、種が自然に馴染む土にする。
(写真は大豆の除草作業)

“自然栽培”にすると、作物が育ちにくくなる田畑も中にはある。その場合は「仕方なく」有機肥料を少しだけ入れる。田畑輪換も行ない種も買って撒くが、そういった田畑も土づくりに努めつつ、将来は“自然栽培”にできるように挑み続けている。

“自然栽培”こそが「本物の食糧」を生み出す手段である、という確信。

反田さんはこの「はんだ牛蒡」をはじめ、大豆・お米・にんじん・里芋を作っています。

そして、そのどれもが引く手あまたの大人気!
ですが、当の反田さんは実にナチュラルで飄々とした、まさに自然そのものの考え方を持っています。

「実は、『美味しいものを作ろう』という気持ちはあまり無いんです。そうじゃなく、『自然の原理原則に基づいて育てたらこんなものができました』という農作物を作りたい。ですから、食べた皆さんにもできればこの考えを感じ取ってもらいたい、と考えています」

驚くべき言葉ですが、反田さんの農作物の魔法のような美味しさは、あくまで結果論。「自然に合わせて栽培したら、こうなった」という結果でしかないのだそうです。

例えば、反田さんのごぼうは「アク抜きや皮むきが不要で、そのまま齧れる驚きの美味しさ」で有名です。
しかし、それはあくまで販売促進のために打ち出したもの。事実ではありますが、“自然の摂理”に合わせた結果でしかないのだそうです。

「自然に作られた“ごぼう”はこうなります、それを食べた皆さんはどう思われますか?――そんな問いかけるような気持ちで、いつも栽培に取り組んでいます。そして、私のような“自然栽培”の作物を作って売る、という商売は、あくまで一過性のものでしかない、とも思っています。本当はひとりひとりがご自分の食べる作物を作ることこそが、自然な形。それが本来の“農業”でもあり、私はその過渡期のお手伝いをしているに過ぎない、と思っています」

“美味しいもの”や“人受けする農作物”は目指していない。土の力を最大限に発揮させて栽培したら、ただこうなった。

“最良の栽培方法”と“正しい農業の形”を目指してたどり着いた、偶然かつ必然の美味。

自然の植物は誰からも肥料を与えられない。そのため人が育てた野菜のえぐみ=アクや、不自然な肥大、収穫した後に腐っていく現象などは、肥料のせいで起こると考えた。そこで“自然栽培”に切り替えて、収穫後も腐らず、自然の植物のように「枯れていく」農作物が作れるようになった。
(写真は収穫期の大豆)

ただ美味しいだけではない、自然で素直な大地の恵み!

こうした「腐らずに枯れていく」ナチュラルな農作物は、人の体にも負担をかけません。
そのため単なる美食家だけではなく、アレルギーや化学物質過敏症に悩む人々にも、反田さんの農作物は支持されています。

その人気はどれも収穫するたびに売り切れてしまうほどで、ほとんどがお得意様への販売でおしまい。
旬の時季に一部をネット通販に出したり、出雲地方のご当地スーパー・「グッディー」に出荷しますが、巡りあえたらとてもラッキーです。

●ごぼう

名だたる高級料理店や、紀伊国屋などの高級スーパーに引っぱりだこの「はんだ牛蒡」。原則として自然栽培ですが、畑によっては少しだけ有機肥料を使っています。 出荷時期は7月~冬にかけて。

●大豆

すべて自然栽培で、種は2015年から自家採種しています。品種は高タンパクで、味噌や豆腐に適した「サチユタカ」。2020年は、11月末頃から通販の予約を受け付けます。

●お米

現在はお得意様への販売のみ。今後、チャンスが巡ってくるのを待ちましょう。

●にんじん

すべて自然栽培の「はんだ人参」。自家採種の固定種(畑の中で一番良くできた野菜の種を採って、それを何度も繰り返して自然に品種を改良(選抜)したもの)と、種苗会社から買ったF1種(人工的に交配させた、一代限りの特徴を持つ種)を併用しています。

出荷シーズンは冬ですが、近年は作付けを中止しています(再開の予定あり)。雑味のないすがすがしい味は、にんじん嫌いの子どももパクパク食べてくれる、と評判です。

●里芋

すべて自然栽培で、出荷シーズンは冬。有機JAS認証を受けており、「土だれ」という品種を10年以上も種芋から繋ぎながら作っています。

どの作物も、収穫量に対して買いたがる人が多すぎるため、買えるかどうかはご縁次第。個人向けの通販は出荷シーズンにホームページで告示されるので、それチェックしましょう。

ごぼう畑での農作業の様子。江の川の流れに運ばれた砂壌土が、深く堆積して栽培に適した畑となった。

植えた作物に適していなかった畑や、栽培するにつれて上手くいくようになった畑、最初は上手くいっていたのに次第に上手くいかなくなった畑など、様々にある。しかし、いずれはすべての畑を“自然栽培”にすることを目指す。

“自然栽培”の道は長い。焦らず地道にその境地を目指す。

反田さんは、ここ江津市桜江町の土木業の家に生まれました。
そして造園業を1年、土木業を3年、進学塾の講師を5年経験した後に、現在の農家に転職。最初は有機農業を目指しましたが、あるとき思わぬ事で行き詰ってしまったといいます。

「そのトラブルの1つめが、普通は収穫後2、3カ月すると味がのって美味しくなるはずのごぼうが、私の場合はなぜかドロドロに腐ってしまう、という現象が起きたことです。
そして2つめは、化学物質過敏症の人達が農薬を使った普通の野菜でアレルギーなどを起こされて、ご自分たちがなんとか食べられるものを探していた、という事。それで調べてうちのごぼうに辿り着かれた方がいたものの、取り寄せてみたら、当時は有機栽培で農薬を使っていなかったにもかかわらず、「食べられなかった」と言われてしまった事です。
そして3つめは、ごぼうは一度植えると次は5、6年後にしなければ連作障害が起きる、と言われていた事です。それらの事で、うちは経営的に非常に困っていました」

「そんな中、以前から耳にしていた“自然栽培”の勉強会が出雲で開かれました。そして誘われてなんとなく受講してみたところ、これら3つの悩みがすべて解決する、と言われたんです。
いわく、『有機栽培も実は不自然な農法で、そのために反田さんが悩まされているような問題が起きる』と言われました。それで『すぐにやってみよう!』と思い、2009年の秋から“自然栽培”を始めたんです」

肥料を入れない“自然栽培”は、始めた当初は収穫量がガクンと落ちる。過去の肥料や農薬が抜けて“自然栽培”に適した土になるまで、苦労の連続だった。

“自然栽培”の土づくりは我慢くらべ。一途な忍耐でそれを叶えた!

「“自然栽培”の講習会でも念を押されましたが、いきなりすべての畑をそれに変えると、経営的な問題が起こるんです。『まずは一部の畑から始めてください』と言われましたが、私は待ちきれずに、当時16ヘクタールくらいあった畑をすべて“自然栽培”にしてしまいました(笑)」

そして、最初の2年間はやはり言われたとおりに経営的に散々な目にあってしまったそう。

「収穫量は落ちるし、その他のトラブルも多発するしで、そのため3年目からは、一部の畑を有機栽培(化学物質は使わないが、自然由来の資材や肥料は使う農法)に変更しました。ですが、今度は自然栽培で順調だった畑が、3~5年目に育ちが悪くなってしまったんです。昔入れていた肥料が畑に残っていて、それで当初は作物が育っていたんですが、それがだんだん抜けていって、作物が育たなくなった。『さて、この先どうなるんだろう』と思って未来が見えませんでした」

反田さんがこの山を越えられたのは、やはり“自然栽培”の講習会で聞いたアドバイスのお陰だったそうです。

「『肥料=養分の供給が絶たれると、後は本来の地力で順調に育つ畑もあれば、V字のようにいったん収穫量が落ち込んで、再び上昇する畑もある。その時に畑の管理を間違えれば畑がダメになってしまうから、しっかり手入れしなさい』と言われたんです。
そのため、『ああ、これはきちんと手入れすればV字回復していくのかな』と思えました。そこで基本的な管理を徹底して、“自然栽培”の原理原則を間違えずに、期待を持ちながら取り組み続けました」

結果、反田さんの畑は見事に収穫量がV字回復していったそうです。

「すべての畑ではありませんが、8割方は回復しました。残りは私の管理の誤りだったのか、他の理由だったかは不明ですが、おおむね全体の状況は良くなりました」

“土づくり”の山を乗り越え、今やほとんどの田畑を“自然栽培”に転換。そこで育つ作物と反田さんの名は、日本全国に知られるようになった。

良い作物は良いご縁を呼んでくれる。“自然栽培”が広げた大きな輪!

「今はこちらから売ろうとしなくても、日本全国から声をかけて頂けます。本当に有難いことに、普通は売る方が買ってもらう方に頭を下げるものですけど、逆に頭を下げられるんです」

たとえば東京の紀伊国屋など、シビアな取引で知られる高級スーパーや大手のバイヤーも、恐縮するほどにとても低姿勢だそう。

「『反田さんを信頼しているので、思うようにやってください』と言われます。そうして出荷した作物も、『お客さんが喜んで買ってくれます』と言われますね。出荷しない時期は、『いつから入りますか?』『いつから買えますか?』とお問い合わせがあるそうで、そんな感じで引き合いは多いものの、収穫量を増やすのに苦戦しているため、なかなかご要望のすべてに答えられないのが悩みです」

こうしてすっかり名が知れ渡った反田さんのごぼうと作物ですが、そのきっかけは出雲のご当地スーパー・「グッディー」とのお取引だったそうです。

「新規就農したばかりでさっぱり農業の常識を知らなかった頃に、営業さんが訪ねて来られたんです。そして『このごぼうなら、この量をこの価格で売ります』と提案してもらえました。それがびっくりするほどの高値で、当初は売れ残って廃棄されたこともあったそうですが、あの手この手でおすすめして頂けて、だんだん口コミで広がっていきました。そのご尽力のお陰で、うちの経営と栽培も軌道に乗せることができたんです。今でもグッディーさんに提示して頂いた価格をベースに全国に売っています」

「グッディーさんとのお取引が無ければ、うちの経営も今のように安定はしませんでした」
と振り返る反田さん。

とても感謝していて、今でも「グッディー」には優先的に出荷しているそうです。しかし、それは真面目に良い作物を作っていたからこそ呼びこめた“ご縁”。人と人との繋がりを大切にする、島根ならではの心温まるエピソードです。

普通のごぼうよりも遥かに高価な反田さんのごぼう。それでも全国のバイヤー達に引っぱりだこ!

反田さんの畑がある桜江町に、ごぼうの栽培に適した土壌をもたらした江の川。島根の風土と人が、健やかな作物を育む。

自然栽培の素晴らしさを広めるために、その長期選手になりたい。

こうして“自然栽培”の旗手として、全国的にその名を知られるようになった反田さん。今後は“自然栽培”を「特別」ではない「当たり前の農業」にしていくために、“自然栽培”界の長期選手を目指していくそうです。

「“自然栽培”の価値は、取り組み年数に尽きます。これは地味ではありますがとても重要なもので、過去に肥料や農薬を使っていた畑でそれを絶って、その後どれだけ続けていくかで、作物の質も収穫量も上がっていくんです。
私は今10年目ですが、今後20年、30年、40年と続けていって、次の世代に繋げていきたい。なぜなら“自然栽培”のそういった先輩は、全国でもまだ数名しかいないんです。“自然栽培”を30年以上行なっている人は、まだまだ農業界の例外扱い。ですからそういった長期選手の一人になると同時に、仲間も増やしていきたいと考えています」

“自然栽培”から学べる自然の原理原則を暮らしに活かし、世の中の問題や不可解なことを、その価値観で解決していきたい、とも語る反田さん。

「なぜなら私たち“自然栽培”に取り組んでいる人間と、そうでない世間の人たちとの見方にはとても乖離があるんです。そうした齟齬を埋めて問題解決の糸口に気づいて頂けるように、生き方についても発信していきたい、と思っています」

単なる農業の手段を超えた、生き方や価値観としての“自然栽培”。それに興味をもった方におすすめなのは、「自然栽培全国普及会」という“自然栽培”の互助団体だそうです。

「こちらに入会すれば、“自然栽培”を始めるための知識や情報、人脈などが得られます。また、「株式会社ナチュラルハーモニー」という“自然栽培”の作物を宅配サービス等で提供している会社のホームページに、いろんなイベントや勉強会の情報もあります。私の農場でも年に一回見学会を行なっていますので、興味があれば是非おいでください」

ただ食べる物を作るのではなく、その背景の変革をも目指して。“自然栽培”という農法は、新たな社会の在り方をも示しています。

“自然栽培”を単なる手段ではなく、社会的な目標ともしている反田さんは、それを広めるために「農場見学会」を行っている。次代の“自然栽培”の担い手を目指す方は、ぜひ参加してみよう。

自分が食べる作物のことを考えれば、生き方までもが変わってくる。そんな指針をも“自然栽培”は示している。

- DATA
有限会社はんだ

HP:http://handa-shizensaibai.jp/
住所:島根県江津市桜江町小田42-4

業務内容:自然栽培農産物および有機栽培農産物の生産

取材協力・ 写真提供: 有限会社はんだ/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら

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