島根県でしか採れない、珍しくて美しい石。
約1600万年前に海底火山の噴出物(火山灰など)が海底に振り積もり、長い年月をかけて石となっていった“凝灰岩(ぎょうかいがん)”で、濡れても滑らない、湿気や匂いを吸い取る、といった優れた性質を持ち、今も昔も様々な建造物や置き物などに加工されている。
~ 目次 ~
「福」と「光」を招く、島根県特産の縁起の良い石。
「ありふれたもの」「珍しくないもの」といったイメージで語られることが多い「石」。ですが、石ほど人の役に立ち、古くから暮らしを支えてきてくれた存在はそうはありません。
建物や床に、道や橋にと、暮らしや交通を便利にしてくれただけでなく、道具や置物などにも加工されて、さらなる利便性や心の潤いまでもたらしてくれました。
常に人と共にあり、身近で支えてきてくれた「石」。
それらには、確かな個性と地域ごとの特性があります。
今回ご紹介するのは、そんな島根県特産の『福光石(ふくみついし)』です。
大田市温泉津町(ゆのつちょう)の福光(ふくみつ)でしか採れない、淡い青緑色の石。地域の人々の暮らしをはるか室町時代から支えてきました。
福光石の特徴は、柔らかく滑らかな感触と、水に濡れても滑りにくい珍しい性質です。さらに適度な吸水性や吸湿性があり、建材に使うと土壁や木材のように湿度を調整してくれます。
加えて嫌な匂いを吸い取ったり、音を吸収するなどのメリットもあり、床・階段・温泉・美術館など、様々な建物や場所に使われています。
石見地方の暮らしを支えた大自然からの贈り物。
『福光石』ができたのは、今から1500~1600万年前です。
日本列島がユーラシア大陸から分かれ始めた古代で、激しい地殻変動による海底火山の噴火によって、火山灰などが海底に降り積もり、長い年月をかけて石となっていきました。
つまり『福光石』は、日本列島とほぼ同じ歳月を経た古代からの贈り物なのです。
そんな気が遠くなるほど昔からある『福光石』ですが、島根県の人々の手によって掘られ始めたのは、室町時代から。暮らしや交通のための建築を幅広くまかない、家屋・庭園・神社仏閣・土木工事などに活用されてきました。
そして地元の石見を中心に広島や山口にまで販路を広げた『福光石』は、出雲産の『来待石(きまちいし)』と共に、山陰の二大石材として名をはせるように。今もなお、優れた石材として引く手あまたです。
貴重な『福光石』の採掘をただ一社で担う。
現在 福光石を採掘しているのは、室町時代から450年以上も続く『有限会社坪内石材店』ただ一社です。
かつては多くの採石業者が金棒やツルハシ・金鎚などの手作業によって石を切り出していましたが、今は作業も機械掘りとなり、坑道も坪内石材店の採石場のみが残っています。
採石場では、まずは横方向に石を採掘していくために、「垣根掘り機械」という機械を使って原石を切り出します。さらに下方向に掘り進めていくために、「平場掘り機」という機械を用いて原石を切断してから、チェーンが切断した溝にくさびを打ち込んで、石山から剥がし取ります。
こうして切り出された『福光石』の原石は、加工場に運ばれて、様々な形に切断された後で用途に応じた表面仕上げが行われます(水磨き・ビシャン仕上げ・小叩き仕上げ・ノミ切り仕上げ・割肌加工等)。
その他にも様々な特殊加工や彫刻などが行えるので、石で作れるほとんどの物に加工できます。
こうして加工された『福光石』は、以下のような様々な用途や施設等に使われています。
・床、壁、浴室などの建材
・道路、石畳、階段など
・庭園、庭石、灯篭、石像など
・温泉の浴場
・石碑や記念碑
・石臼や流し台など
・墓石
近年、建材は人がよく触れたり、その中で暮らしたりすることから「安全性」が重視されています。『福光石』はその安全性を高いレベルで満たしているため、子供からお年寄りまで誰もが安心できます。
島根旅行の穴場スポット! 神秘的な採石場をガイドツアーで見学。
そして現在 唯一残っている『福光石』の坑道は、ガイドツアーで見学することができます。
※要予約/前日まで
まるで古代の遺跡か神殿のように見える地下空間と、異国に続く秘密の抜け道のようにも思える坑道は、必見の絶景!
かつて行われていた手掘りの採掘跡と、今行われている機械掘りの様子や工程が見られます。
※採掘作業の見学は行われているときのみ
※山水の浸み出しが多い季節や、危険な作業を行っている時は見学できない場合があります
真夏でも真冬でも約15度前後に保たれている坑内は、夏はヒンヤリ、冬はほのかに暖かく感じる快適な空間。ただし梅雨や台風、秋の長雨の時季には、坑内の湿度が100%に達して天井や壁から水滴が落ちてくるため、この時季は避けての見学がおすすめです。
島根旅行の知られざる穴場スポットで、ファミリーやカップルはもちろん、子供の体験学習にもピッタリ。世界遺産の石見銀山からも近く、
「人とは違った旅行がしたい」
「めったにできない体験がしたい!」
という方々におすすめです。
神秘の『福光石』をお土産で手に入れる!
なお、ガイドツアーの最後に訪れるお土産コーナーや、坪内石材店のホームページでは、『福光石』で作られた小物類が買えます。
実用的なコースターやペーパーウェイト(文鎮)、花器台などをはじめ、『福光石』の優れた性質を生かした消臭・乾燥剤や入浴剤、観賞魚用の水質浄化石、縁起の良い名前にあやかった御守りなど、様々なアイテムが手に入ります。
いずれもコンパクトかつ珍しいので、島根旅行のお土産にピッタリ!
他では手に入らないラッキー・アイテムとしてもおすすめです。
また、もちろん受注生産による建材や、庭に置く灯篭(とうろう)、水鉢、彫刻などの大物も注文可能。変わったところではピザ等を焼く石釜や、岩盤浴用の岩盤も人気だそうで、ご希望と予算に合わせて様々な物を作ってもらえます。
はるか1600万年の古代から、現代に届けられた大地からの贈り物――神秘的な美しさと「福」が「光」る縁起の良さを、お手元に置いてみてはいかがでしょうか?
- DATA
福光石の採石場(石切り場)
住所:島根県大田市温泉津町福光ハ107-1
<福光石の購入>
HP:https://www.daifuku-izumo.co.jp/fukumitsu-stone/index.html
電話:0855-65-3875(有限会社 坪内石材店)
<採石場(石切り場)の見学ガイドツアー>
HP:http://fukumitsuishi.blog133.fc2.com/
電話:0855-65-2998(NPO法人 石見ものづくり工房)
営業時間:9:30~17:00 (受付16:00まで)
休業日:お盆、年末年始
料金:
1~4名 一律1,500円
5名以上 大人一人300円 中高校生一人200円、小学生一人150円、幼児無料
20名以上 一人270円
取材協力・
写真提供:
有限会社 坪内石材店,NPO法人 石見ものづくり工房/無断転載禁止
ライター:風間梢(プロフィールはこちら)